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北海道新聞に弊社が掲載されました 2019.3.4

バイオトイレをベトナムへ 下水道管敷かず悪臭と水質改善

「トイレの臭いがしないなんてありえない」「だまそうとしてもだめですよ」
 正和電工の橘井社長がベトナム北部のハロン湾近郊でバイオトイレ普及のために説明会を開いたときのこと。橘井社長は、地元の人たちの疑問に、にこにこしながら耳を傾けた。
 ハロン湾は彫刻のような奇岩や島が点在する景勝地で、世界自然遺産に登録されている。外国人観光客の増加に伴い周辺の町が発展し、生活排水が大量に湾内に流れこんでいる。
 改善のためには一般的に下水道の整備が求められるが、下水道管を敷設して浄化施設を建設するには膨大な時間と労力、多額の資金が必要となる。流す水の確保も課題。トイレの問題は後手に回り、住民は悪臭に耐え続け、水質悪化のため健康もむしばまれる。橘井さんが開発したバイオトイレは、水も下水道もいらない。便槽内におがくずを入れて排せつ物を処理する。スクリューでかき混ぜ、ヒーターで暖めれば、し尿の90%を占める水分が蒸発し、残りの有機物はおがくずの隙間に生息している無数の微生物群が分解してくれる。脱臭性を備えているため臭いもしない。「ベトナムで実際に設置してみると、驚きと歓声があがった」と橘井さん。
 バイオトイレとともに台所や風呂の雑排水用に木炭を利用した浄化装置も製品化し、2013年から昨年まで外務省や国際協力機構(JICA)の委託を受けて東京のコンサルタント会社と協力し、ハロン湾での普及を進めてきた。これまでに観光船や学校、一般家庭にバイオトイレ27台、浄化装置18台を設置した。

 橘井さんがバイオトイレに着目したのは、自分の病気がきっかけだった。25年ほど前、がんで胃の5分の4を切除したら、水道の水がまずくて飲めなくなった。世間が当たり前と思っていた水洗トイレと下水道のシステムに疑いの目を向け、長野のメーカーが作っていたバイオトイレの原型に行きついた。「きれいな水を、ふん尿を流すために浪費しても良いものだろうか」。疑問を胸に、倒産したメーカーから意匠権を買い取って改良を重ね、下水道に頼らなくても済む製品を次々と開発。工夫と努力は特許権16本、意匠権31本の知的財産権に結実した。
 国連はSDGs(持続可能な開発目標)の一つに「安全な水とトイレへのアクセス」を挙げている。世界の人口の3分の1近い23億人がまともなトイレを使えず、9億人近くが野外で用を足す。子どもたちが下痢で命を落とすのは1日800人以上。トイレは、人類にとって水と衛生にかかわる喫緊の課題だ。

 それだけにとどまらず、食糧の問題にも関係すると橘井さんはいう。排せつ物を分けておがくずに混ぜたバイオトイレは発酵後に優れた有機肥料に生まれ変わり、土づくりにつながる。下水道だとふん尿以外のものも入り込み、汚泥に重金属が含まれて焼却処分されることがあり、循環型社会は絶たれてしまう。
 70億人を超す人類は、今世紀中ごろに100億人を突破すると予測されている。「水を汚さず、飢えず、健やかに暮らしていく方策を求めていきたい」。橘井さんは未来を見つめる。