能登発、救援トイレの輪
能登半島地震を契機に自治体による移動式トイレの救援ネットワークが急速に拡大して
いる。現状の22自治体に加え、7月末現在で13自治体が参加を決め、さらに100件を超す問
い合わせが運営団体に寄せられている。各自治体1台の小さな支援だが、その輪の広がり
が止まらない。
「今も周辺の家庭や避難所の住民が利用しています」。石川県輪島市の市立輪島病院の
大下銀次庶務係長は病院駐車場にあるトイレトレーラーを見ながら話す。被災直後の1月4
日深夜に千葉県君津市から到着し現在も活躍している。
被災地の上下水道は基幹部分の復旧をほぼ終えたものの、各家庭につながる配管はまだ
工事に入っていない所が多いという。輪島病院のトイレは完全に復旧したが、周辺住民を
考え、派遣継続をお願いしている状況だ。
支援トイレのネットワーク「みんな元気になるトイレ」を主宰する一般社団法人「助け
あいジャパン」によると、参加する22自治体すべてが被災地に入った。これまでに延べ約
25万人が約118万回利用、今も10台が派遣を続ける。
同ネットワークは災害時に参加自治体が支援し合う協定で、能登半島地震以外にも2019
年9月の台風15号による房総半島豪雨などの派遣実績がある。本格稼働となった能登半島
地震後には、全国の自治体から問い合わせや参加の打診が相次ぎ、「ほぼ毎日、異なる自
治体から連絡が来る」(助けあいジャパンの石川淳哉共同代表)。
運用については課題も明らかになった。トイレは洋式で4つの個室があり、備え付けの
シャワーで便座の衛生状態を維持する。長期間の運用にはくみ取りや手洗い・トイレ洗浄
用の給水が欠かせない。このため給水車を利用しようとしたところ「給水車の水の利用は
飲料用に限る」との判断から、急きょ散水車の手配に追われた。
国の解釈では支援における「飲料水」は生活用水も含まれているとされる。ただ、被災
地ではそうした内容まで正確に伝わらず混乱を生んだ。
東京23区で初めてネットワーク参加を決めた品川区はけん引免許を必要としないトラッ
クタイプを来年2月に導入する。個室は5つで、電動リフトを車体後部に設置し、車いすや
お年寄りも使いやすいようにした。
区は「首都直下地震対策だけでなく、他地域の災害に対応できる地域間ネットワークを
評価した」(防災課)としている。導入費約3000万円のうち500万円を目標にクラウドファ
ンディングで寄付を募る。
石川氏は「トイレだけではなく、将来はがれきを取り除く重機や、温かい食事を提供で
きるシェフ付きの移動レストランといった支援ネットワークも必要となるだろう」とみる
。災害大国日本で自治体の相互支援の輪は始まったばかりなのかもしれない。(和佐徹哉)