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環境新聞に弊社が掲載されました 2018.5.2

福井県大野市 有害鳥獣を発酵分解処理

 福井県大野市は、有害鳥獣の死がいを発酵分解処理する装置を導入した。森林組合の炭製造施設内に装置を設置、先月20日に稼働式が行われた。焼却・埋設に替わる方式として、好気性発酵分解の原理を用いた分解処理装置で、他の自治体に先駆けての導入になるという。

 福井県の東、岐阜県に隣接する山あいに位置する大野市は、標高約250メートルの越前大野城が雲海に浮かぶように見える「天空の城」として人気を博し、城下町の史跡や老舗めぐりもあわせ、観光地として脚光を浴びている。人口は約3万3千人。水の良さを利用して稲作や野菜作りなどの農業も盛んである。
 同市においては近年、里に下りてくる鳥獣からの農業被害が深刻となっている。鳥獣は猟友会が駆除し、死がいは焼却または埋設処分していた。焼却は、大野・勝山地区広域行政事務組合(ビュークリーンおくえつ)が所有している小動物用焼却炉の大きさに合うサイズに死がいを解体して持ち込み、処分。このため、有害駆除獣が増加すると多額の焼却処理費が必要になる。埋設については、捕獲した周辺で集落の協力を得て行ってきたが、埋設場所の確保や重機を用いた掘削作業により、時間と労力がかかっていた。
 こうした鳥獣処理にかかる費用等の削減に向け大野市が導入した分解処理装置は、処理装置本体2台、粉砕機1台、冷蔵庫、クレーンからなり、事業費は約5千万円。装置は正和電工が製造し、納入設置を中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋(名古屋市)が行った。
 好気性発酵分解を行うための処理装置は、鋼製の幅1.2×高さ1.4×長さ7.2メートルの直方体で、重量4.5トン。内部の発酵槽には直径1.1メートルの鋼製スクリューを取り付けてある。また、上部に捕獲死がいの投入口を1基あたり2カ所設けている。
 処理手順は、発酵槽にオガクズを入れ、シャワーでオガクズの水分を調整後、シリコンラバーヒーターで発酵槽内を60℃に加温し、死がいを投入する。シカの場合、角を除いて投入する。発酵槽内のスクリューが1時間ごとに正回転、反回転を繰り返し、死がいとオガクズを撹拌させる。発酵槽内の温度を60℃に保ち、50~60%に水分量を保つよう加水し、好気性発酵分解の促進環境を作り出し有機物分解を行う。骨だけになったらオガクズとともに取り出し、大きな骨は粉砕し、一般廃棄物として処理する。
 装置は正和電工が保有する、ふん尿処理をオガクズで行うバイオトイレ、それから派生した生ごみ処理機の技術を応用したもので、鳥獣死がいを入れても撹拌できるようスクリューを強化してある。シカなどは骨が残ることから、処理後残骨を粉砕するため、粉砕機も設置。また、定期的にまとめて鳥獣死がいを投入するため、一時保管のための冷蔵庫も設けている。
 同装置の導入に当たり、中日本エンジニアリング名古屋と正和電工、大野市は昨年度、実証実験を行った。分解能力は45キロのイノシシの場合、1日当たり10キロ、死がい個体の腹が割れるまで2日から3日、その後は加速度的に分解が進行し、約6日で分解が完了した。90キロのイノシシの場合約9日で分解した。シカについては10~14日であった。1回の投入量は300キロ前後で、イノシシやシカで6~8頭分に相当する。死がいを切断してから投入すれば迅速に処理でき、年間処理可能数は400頭程度を想定している。
 好気性微生物はオガクズが持っており、処理のために特別な菌を別投入する必要はない。オガクズは連続処理する場合、月1回の交換が必要。
 鳥獣分解処理装置2台の内、1台はイノシシ専用でもう1台は主にシカとカワウ、カラスなどの鳥を処理する。市では処理したオガクズを肥料等に再利用したいと考えているが、現状ではイノシシの分解物にその可能性があることから、イノシシと他の鳥獣を区別して処理することにしている。